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総合職試験動向について思うこと

 みなさんこんにちは。この間、総合職試験を取り巻く環境は急激に騒がしくなり、うちのような小さな予備校に対しても見解を求める声はあったのですが、官庁訪問以降、大学のテストや義父の急逝が相次ぎ、ブログを更新する余裕がありませんでした。義父逝去に伴う一連の手続きは、今が佳境で時間的余裕は当面ないのですが、今月に入って教養区分や来年の官庁訪問再チャレンジについての相談メールが頻繁に届いていることから、表題について、公表資料ならびにこれまで蓄積した経験を基に、私の思うところを述べることにします。


 みなさんもすでにご存じでしょうけれど、まもなく始まる今年の教養区分試験を皮切りに、総合職試験は数年に渡り大きく変化していきます。6月に公表された『令和3年度人事院年次報告書(公務員白書)』および8月に公表された『令和4年人事院勧告』において、人材確保に向けた国家公務員採用試験の課題と今後の施策が、詳細に書かれていますが、それらを簡潔にまとめると下記のとおりです。


【教養区分】

①1次試験受験地の拡大(4都市)と企画提案試験の一部内容変更(今年度試験より)

②受験可能年齢の19歳への引下げと1次試験受験地の更なる拡大(来年度試験より)

【春試験(教養区分以外)】

①試験実施時期の前倒し

(2023年)第1次試験:4月上旬、最終合格者発表:6月上旬

(2024年以降)第1次試験:3月中・下旬、最終合格者発表:5月下旬

②人文科学専攻者が自らの専門分野で受験しやすい試験区分の導入(2024年以降)

③受験しやすい基礎能力試験の実現(2024年以降)

【総合職試験全区分共通】(来年度試験以降)

①採用試験の合格有効期間の延伸

「教養区分」以外:5年間、「教養区分」:6年6箇月間


 人事院によれば、近年の国家公務員総合職の不人気ぶりに加え、2021年度に実施した「国家公務員を志望しなかった者を対象に含む意識調査」の結果が、上記の試験変更の根拠になっているようですが、私個人および予備校代表の両方の立場として言わせてもらえば、教養区分試験の変更点以外は全く評価できません(教養区分についても、受験可能年齢引き下げは、官自ら大学生の青田買い激化に加担するわけですから、効果の有無はともかく道義上の問題が生じると思います)。


 今世紀はじめから総合職試験の変遷を観察してきた立場から言えば、現在の総合職事務系は法律区分や経済区分ではなく、教養区分が入省者の質的保障を担っているのは明らかです(うちの場合で言えば、今年度の内定者は大学こそバラバラですが、全員教養区分合格者ですし、教養区分合格者で無内定者は、うちではいまだかつて存在しません)。それゆえ、道義的問題に目を瞑れば、教養区分受験者を増やす試みについては異議を唱えるつもりは全くありません。


 しかし、春試験の変更点に関しては全く理解不能です。人事院勧告を読むと、各省庁からの試験早期化要望に加え、民間企業の内々定解禁日(6月1日)に合わせてとのことですが、民間就活を行っていた総合職内定者の内、6月1日時点で無内定の学生は少数派なのではないでしょうか(人事院内定者は知りませんが…)。少なくとも、うちの学生の場合で言えば、併願先には外資系企業もありますので、早い子だと3年生夏の段階で内々定が出ていますし、国内企業でも、総合職を本気で目指している学生が併願するところは4月段階で事実上の内々定を出しているのが実態です。つまり、1か月程度の前倒しは、何の意味もないどころか、受験勉強に費やせる時間が短くなってしまうことから、むしろ春試験の出願者数減少につながると懸念されます。


 また、新たな試験区分の導入についてですが、コストの問題を無視してもよいのならば、導入そのものに反対するつもりはありませんが、現在でも、出身学部に見合った試験区分がちゃんと用意されていることから、そんなことに時間とお金を費やすのならば、教養区分に一本化した方がマシだと思います。おそらく、こうした試みの根底にあるのは、川本裕子・人事院総裁による下記のコメントが象徴するように、女性合格者の増加なのだと思います。


『国家公務員試験(総合職)では、申込者の4割が女性なのに、合格者は3割ほどだ。背景を調べると、人文科学系の学部で学んだ女性が、専門外の「法律」や「経済」の試験区分を受けていることなどがあった。』(日本経済新聞 2022年8月15日9面より)


 「法律」や「経済」の試験区分における女性合格者の割合が、申込者に比べて少ないのは確かに事実ですが、これは他の試験区分にもみられる傾向で、専門試験が一切課されず出身学部の違いによる不利益が最も小さいはずの教養区分では、もっと極端な結果になります。昨年の教養区分の事例でお話ししますと、申込者数では女性は全体のちょうど4割を占めていたのに対し、1次試験合格者数ではわずか22%にまで低下していました(最終合格者でみると、全体の4分の1と、僅かながらですが回復していました…)。ほかの試験区分でも、1次合格者で大きく比率を落とした女性受験者は、最終合格者では一定程度比率を高めています。


 つまり、女性合格者数の少なさの原因を、『人文科学系の学部で学んだ女性が、専門外の「法律」や「経済」の試験区分を受けていること』に求めるのは、あまりにも無理があるということです。自分が指導した範囲でしかいえませんが、試験の種類と性差が、女性合格者数の少なさに影響している気がします。総合職試験は1次試験はどの区分であれマークシート式です。一方、2次試験は、春試験では専門記述がありますが、教養区分では論文、面接、グループディスカッション、プレゼンとなっています。私の指導した範囲では、マークシートや専門記述は男性の方が点数が高く出ますが、それ以外では、女性の方が評価が高くなる傾向にあります。で、総合職試験は毎年、1次試験でかなり篩い落とします。このことが女性合格者数の割合が伸びない最大の理由なのだろうとみています。


 ゆえに、手間を厭わないのならば、1次で篩い落とす現状から、2次試験の大幅重視に転換すればよいだけです。ただし、これは一時凌ぎに過ぎません。女性受験者の増加を本気で目指すのならば、試験制度を闇雲にいじるよりも、魅力的な職場に変えるとともに、そのことを広く伝えていくことだと思います。そのことに関連して、そうした皆さんの取り組みを全て台無しにする現職・元職(もちろん一部であることはわかってます)のSNSリテラシーの放置状態を人事院挙げて何とかすべきだと声を大にして言いたいです。職場への不満をSNSでぶちまけるのは多くの人がやっていますが、霞が関の人たちの悪いところは、プロフィールに霞が関と明記しているため、具体的な省庁名は伏せられていても、少なくとも霞が関は、守秘義務の意識が決定的に欠如している組織だとイメージダウンをもたらしている点です。しかも、就活シーズンになると決まってツイートが増えます。本人はアドバイザーのつもりでしょうが、緊張を強いられる受験生のモチベーションをへし折りに来ているとしか思えません。


 合格者の権利延長に至っては、各省庁採用担当者が危惧している事態が一層悪化することから、やめるべきだと思います。このブログを閲覧されている現職の方は薄々気づいているかと思いますが、5~6年前までならば、まず出会うことがなかった層が現在の官庁訪問ではやってきています。もちろん、優秀な学生も多数訪問していますので、現在のところ、内定者の顔ぶれをみる限り、採用されるベき人材がちゃんと採用されており、そうした層で各省庁の定員が概ね満たされているように思われます。


 しかし、合格権利の延長は若年層の滞留をもたらします。再チャレンジまでは良いとして、3度4度と若者が官庁訪問を繰り返す姿は国全体としてみれば、どう考えても健全とは思えません。建前としては博士課程修了者の存在があるようですが、私も博士課程修了者かつ学位取得者であるので、院生時代の苦悩は理解しているつもりですが、20代後半になっても社会に出たことがない人間が、専門的業務ならいざ知らず、国家公務員総合職として就職というのは無理があります。院生のあり方と総合職のあり方は分けて考えるべきです。


 ゆえに、申込者増加と受験者の質確保の両方を満たしたいのならば、現状は、春試験ではなく教養区分を採用試験の中心に据えることが最も効果的であり、少なくとも春試験を中途半端にいじることはやめた方がよいでしょう。さらに、人材の多様性を志向するのならば、拡大傾向にある経験者採用をもっと大々的にやるのが一番です。ただ、試験制度をどれだけ変えても、結局は職場が魅力的であることが伝わらなければ、元の木阿弥となります。予備校稼業を20年余続けている立場から言わせてもらえば、霞が関改革の話は、何度となく登場しましたが、いつも自然消滅しています。なので、私の期待を裏切ってくれることを切に願っています。

それでは、また。

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