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喜びに水を差すつもりは毛頭ありませんが、官庁訪問廃止を真剣に検討してもよいのではないでしょうか?

更新日:2021年5月1日


 みなさん、こんにちは。9日の内々定解禁を以て、長かった国家公務員総合職試験が終了しました。見事内々定を獲得したみなさん、おめでとうございます!年々、短期決戦の様相を呈しているとはいえ、実際に内々定が通知されるまで気が気でなかった人も多かったことと思います。しばらくの間は喜びに浸ってください!一方、残念ながら内定に至らなかった方、決して皆さんのこれまでの人生が否定されたわけではありません。そこは誤解しないでください。他の進路を歩むにせよ、翌年の官庁訪問に向けた行動に移すにせよ、官庁訪問の経験は必ず活きてきますので、しっかり前を向いて歩んでください。

 CIMAアカデミーは経済区分と教養区分しかない小規模予備校ですので、他社さんと異なり、内々定解禁日のうちに内々定率({内々定者数/官庁訪問者数}×100%)が出てしまいます。内々定先の公表については10月の内定式までお待ちいただきますが、今年のCIMA生は5省庁から内々定を頂き、内々定率は約71%です(12月追記。その後もう1省庁増え6省庁となりました)。今年の受講生は択一試験から最終合格発表まで誰一人不合格者が出ず、院卒行政区分では1位合格、経済区分でも一桁合格者が出ましたので、官庁訪問は本気で全員内々定獲得を目指しました(言っときますが、順位は採用に関係ないことはわかってますし、うちは早期より順位と内々定の間に相関性がみられないことを主張しています)。

 ところが海外大学院留学(まあ、これは来年官庁訪問するだけですので特に問題ありません)に加え、日本銀行をはじめとする政府系機関へ就職するので官庁訪問しないという学生が続出しました(この他、民間に転じたため受験すらしなかったという学生も数名出ました…)。結果、うちは今年、女子学生が誰一人官庁訪問をしない(経済区分主体の学校なので、元々女子学生は少ないのですが…)だけでなく、院卒行政区分トップ合格者も官庁訪問をしないという異常事態(?)に陥りました。NHKがWEBサイトで特集している「官僚のリアル」で、昨年の経済区分トップ合格者が官僚にならなかったことが報じられていましたが、今年はうちで同じ事態が起きてしまいました…。

 そうした状況下で先に挙げた内々定率を確保できたのですから、まずは今年の受講生の頑張りを素直に褒めたいと思います。と同時に、総合職受験生を時系列で観察している数少ない人間である(?)私の眼には、これ以上看過することのできない現象がいくつも映りました。まず、過年度の受講生と比較して今年の学生はとりわけ優秀というわけではありません(あまりいい気分はしないでしょうけれど、この1年さまざまなOBと接してきているので本人達は自覚していると思います)。にもかかわらず、官庁訪問における評価について言えば、ほとんどの学生が複数の省庁から強い勧誘を受け志望先について思い悩む、近年稀に見る高評価集団という、当初の予想とは大きく異なる状況でした(ただし、官庁訪問期間中の指導が例年よりも楽だったとは一言も言っていません!)。

 人が人を評価するのですから、そこに恣意性が入り込む余地があるのは避けられないし、疑義を唱えたところで水掛け論に終始するだけです。しかし、人物重視の名の下に、地方の学生に不利にならないよう説明会回数を増加させるだけでなく(事実、文部科学省のようにskype説明会を実施したところもあります)説明会自体が採用とは無関係と標榜しておきながら、実質的に官庁訪問はますます短期決戦の様相を強めており、主要省庁の場合、第2クールから参加しても採用に行き着くことは極めて稀です。ゆえに、官庁訪問が公式の採用プロセスでありながらも、実際には説明会の参加数等に左右され、官庁訪問で行われる面接が将来性も含めた面接につながってない、と多くの学生に噂されても仕方のないことのように思われます(もちろん、説明会参加履歴がゼロであっても恒常的に採用されている官庁も一部存在するのも事実です。また、この表現は本当に嫌いなのですが、受験生の間でいわゆる5大官庁と目されるところで、今年「説明会参加履歴まったくなし」「3日目訪問」で内々定獲得という事例がありました。しかし、こんなのレアケースです)。

 さらに、民間就活ならば「A社がだめならB社がある」というように選択の余地は十分にある一方、総合職試験の場合はわずか2週間の官庁訪問が唯一の就活機会であり、失敗すれば1年待たなければなりません。民間就活市場が停滞している時分あるいは高度成長期のような国が民間をリードする時代でしたら、官庁訪問は優秀な学生を選抜する機能を十分果たしていたと思います。しかし、現在の民間就職市場はいわゆる公務員バブルの頃とは全く異なります。加えて、人物重視の標榜は、本来ならば出身大学名で説明会等へのアクセスに制約がかかる民間就活市場との差別化になるはずのものなのですが、先ほども述べたように、実際の官庁訪問は超短期決戦かつ、地方大学生に不利な日程となっています。それゆえ、多くの大学生とりわけ地方の学生にとって、総合職を志すことはハイリスクであると言わざるを得ません。中で働いている人にとっては、官庁訪問は若者と話すことで初心に帰ることのできる貴重な機会かもしれませんが、大学生の置かれた環境を鑑みると、時代に合わない採用プロセスになっているように思われます(数年度に及ぶ申込者数の減少はまさにその象徴だと言えます)。

 そして、私が最も憂慮しているのは、「官庁訪問(さらには業務説明会)は、学生側と採用側の『情報の非対称性』解消に寄与していないのでは?」という点です。言うまでもないことですが、全国各地で開催される説明会は、多くの学生に公務員の仕事を理解してもらうことに大きく貢献しています。しかし、若手職員の離職者数の増加(以前のブログで少し紹介しましたが、創業からわずか6年余しか経過していないCIMAアカデミー出身者でも3年連続で退職者が出ています)、特に国内外の大学院留学終了後1年程度で退職する若手職員の増加を聞くにつけ(年次からして前職時代の受講生になりますが、この1年余の間に私が知っているだけで2名おり、いずれも学位取得後1年程度で転職しています)、昂揚感で満ち溢れていた内定者時代には気づかなかった(?)労働市場におけるミスマッチを抱えたまま入省し、理想と現実とのギャップに苦悩する中、留学が官僚生活における数少ないインセンティブ要素だったのではないか、と思わざるを得ません。留学終了後5年以内の転職の場合、費用の返還義務が生じますが、現在の転職市場を鑑みると、こんなの抑止力にもなりません。

 もちろん、退職には様々な要因が絡んでいることでしょうし、そのことについて、ここでとやかく言うつもりは全くありません。ただ、程度の差こそあれ、官庁訪問は内々定の有無にかかわらずほぼ全ての訪問者(全員最終合格しており、そのほとんどが我が国を代表する大学に在籍する者ばかりですよ!)から合理的思考を奪い取ります。それは、今年の内々定者も同様です。私が毎年、官庁訪問期間中24時間相談に対応している最大の理由は、こうした極度の緊張状態の下、意味不明な行動をとりかねない学生に軌道修正を促すことにあります。このような状況ですから、官庁訪問で情報の非対称性解消なんか、まず不可能で、無事内々定に至った学生はたいてい、気合を最優先にし、その後のことなんか一時棚上げ状態というのが本音だと思います。

 以上より、私は、官庁訪問を廃止して、代わりに最終合格者数を今より絞ることで筆記試験本来の役割を復活させるとともに(もちろん、従来の採用予定数よりは多め)、合格者全員をまずは1〜2年の任期制公務員として採用し、任期中の評価を経て本採用とする形を提案したいと思います。大学教員の世界だって、主要大学は今や最初は任期制教員として出発し、成果を上げればテニュアという時代になっています(私は大学では非常勤講師ですが、非常勤は毎年が評価対象年です)。教育という場で任期制が拡大していくことに対しては議論の余地がありますが、大学教員に適用出来て、幹部候補生たる新人公務員に適用出来ないということはないでしょう。少なくとも、任期制導入は官庁訪問に比べて下記の点で優れていると思います。

① 人物重視といいつつ、官庁訪問はますます短期決戦になっており、わずか数回の面接で「熱意が足りない」「成長が見られない」等、意味不明な言葉とともに切られる理不尽さを体験した受験生は今年も多かったことと思います。その理由としては、もちろん採用枠が限られていることが大きいのですが、先ほども述べたように、官庁訪問が公式の採用プロセスでありながら、実際には説明会の参加数等に左右されている点も否めません。しかし、受験生の側はどうでしょう。民間企業の内定があれば、スパッと諦めて別の進路へと歩み出すこともできます。一方、欠点を指摘されたと解釈した受験生は、悩みだすかもしれません。そして諦めきれない受験生は、欠点を直せば採用の機会がやってくると解釈し、官庁訪問段階で足踏みする高齢受験生と化すかもしれません(事実、協力関係にあるアガルート・アカデミーにおける模擬官庁訪問を担当した際、自分のところの学生との平均年齢の違いに驚きました)。足踏みするだけならまだしも、やがて官僚に対する私怨ひいては過剰なまでの公務員バッシングへと転化し、翻って現職の労働環境悪化にも繋がっていく可能性さえあります。一方、任期制で勤務することができれば、任期中の勤務実態で以て、自分に適性があるかないか客観的評価を得ることができます。

② 官庁訪問で何年も足踏みした場合、履歴書には何も書くことができません。また、新卒信仰が依然根強い我が国労働市場では、足踏みをすればするほど就職に不利になってしまいます。学歴がすべてではありませんが、高学歴の若者が社会の入り口で大量に滞留している状態を国家的損失と呼ばずになんと形容すべきなのでしょうか。一方で、任期制ならば、勤務期間があるわけですから、仮に本採用に至らず別の進路を歩むことになった場合でも履歴書に記載することができます。さらに、霞が関の新人職員向け研修制度は民間企業の比ではありませんので(私の前職では…やっぱやめときます)、就活においてもきっと有利になると思います。

③ 近年減少傾向が続く総合職試験の申込者数が回復する期待が高まります。さきほども述べたように、現在の就活市場において総合職を志望することはハイリスク行動でありますが、それは、試験に合格しても官庁訪問で内々定を獲得できなかった場合、主要な民間企業は採用活動を終了しているため、違う進路へと踏み出さない限り、就職浪人を余儀なくされるためです(同じ国家公務員試験でも、一般職の場合、本省がだめなら出先…というように、就職活動を行う余地があるのと大きな違いです)。官庁訪問の代わりに任期制を導入すれば、いくらかリスクが逓減されることから、特に地方を中心に、総合職を目指す受験生が増加するかと思われます。

 以上、外部の人間による戯言と受け取られるかと思いますが、本来は昨年提案する予定でした。しかし、昨年のCIMA生は官庁訪問する学生自体が少なく、結果、内定者も少なかったため、「結果が出せない予備校の負け惜しみ」と揶揄されるのを嫌い、今年まで先延ばししました。CIMAアカデミーは創業以来、平均して内定率は60%を超える水準(今年は70%を超えています)にあり、おそらく他社さんよりも高い数値だと思います。にもかかわらず、弊社が官庁訪問廃止の検討を訴えるのは、このままいくと、霞が関の人材不足は取り返しのつかない事態に陥り、同時に、我々のような予備校業界も総合職に関しては死活問題となるがゆえです。

 事実、経済区分は東日本大震災翌年の2012年には2,800人弱の受験申込者数がありましたが、最近は4年連続で減少して今年は遂に1,700人台にまで落ち込み、完全にリーマン・ショック前の水準に戻ってしまいました。さらに、女性受験者を増やすためにいろいろ試験科目に手を加えた「政治・国際区分」に至っては、教養区分試験が導入された2012年以降、ただの一度も前年比で増加したこともなく、2012年:2,993人→2019年:1,166人にまで激減しています。

 弊社のブログは読者の大半が総合職志望者ですが、OB/OGをはじめ現職の方も閲覧されていると聞いています。職場内部のことについては、各省庁で働き方改革のプロジェクトが進行しており、OBから進捗状況については断片的ではありますが小耳にはさんでおります。それ自体は、現職の方はもちろん志望者にも資するものですので、大いに遂行すべきと思います。それならば、入口についても、時代の流れとともに変えていくべきではないでしょうか。入口と職場双方での変革があって、はじめて大学生に魅力を最大限にアピールできるものと私は理解しています。これまでは、どちらかというと日程調整や試験科目の変更で志願者を掘り起こすという小手先の改革が中心でしたが、もう小手先の改革では総合職志望者は靡かないことを認識すべきだと思います。

 かつて、西ドイツ大統領R.ヴァイツゼッカーは西ドイツ連邦議会の演説で『過去に目を閉ざす者は現在に対しても盲目になる』と述べました。この演説は、ドイツ敗戦40周年の当時においてもナチスの罪を直視するよう呼びかけたものでありますが、皆さんにとって、官庁訪問という入口はかつて通ってきた道であり過去であります。一方、職場は現在、そして志望者は未来を表しています。入口をアンタッチャブルなものとして現在にのみ手を加えても、果たしてそこには輝かしい未来はあるのでしょうか。

 内々定解禁日ですから、本来ならば賛辞に満ち溢れた内容にしたかったのですが、今回はいつもと異なる内容とさせていただきました。長文おつきあいくださいまして、ありがとうございました。

CIMAアカデミー・シニア・パートナー  (兼 東洋大学経済学部/昭和女子大学総合教育センター 非常勤講師) 池田 俊明


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