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GDP1次速報 公表に思うこと


 みなさん、こんにちは。前回のブログ更新から数日しか経ってないのに「なんで?」と思うかもしれませんが、昨日(14日)内閣府が公表した2018年10~12月期国内総生産(GDP)速報値(1次QE)に関していろいろ思うところがあったので、ブログ記事にしました。経済区分受験生の方はもちろん、それ以外の区分の人も試験はもちろん、入省後の仕事への取り組み方とも無関係ではないと思いますので、読んで損はないと思いますよ。

 内閣府の発表によれば2018年10~12月期実質GDPは前期比0.344%増(季節調整値)で年率換算すると約1.4%増で2四半期ぶりのプラス成長でした。個人消費と設備投資の伸びが目立ちますが、GDP増減の内訳の詳細について書くことが今回のブログの趣旨ではないので、これ以上の内容説明については割愛します。内閣府の発表を聞いた最初に感じたのは「予定通りの業務を遂行したまでと言われればそれまでだけど、よりによって、この時期に1次QEを公表するとは!」という驚きでした。

 多少なりとも経済学をかじったことのある方ならばご存知だと思いますが、1次QEの精度はお世辞にも高いモノとはいえません。ちなみに、内閣府は国民経済計算に関して、公表時期を出来るだけ早めるために、早期に利用できる基礎資料を用いて推計するとともに、より精度の高い基礎資料の入手に応じて、段階的に推計値を改定し、統計の正確性を一層高めていくこととしており、公表時期の早いものから順に以下のようになります(太字強調は池田によるもの)。

1. 1次速報 (1次QE):支出系列及び雇用者報酬について、約1ヶ月と2週間程度遅れで公表される。

2. 2次速報 (2次QE):1次速報発表の1ヶ月後に、支出系列及び雇用者報酬について、新たに利用可能となった基礎資料による改定を行う。

3. 第一次年次推計(旧称:確報):毎年12月頃公表する。より確度の高い基礎資料に基づき、前年度及びその四半期のQEを改定するとともに、より詳細な計数を公表する。

4. 第二次年次推計(旧称:確々報):第一次年推計公表の1年後に、新たなデータの入手により計数を改定する。

5. 第三次年次推計:第二次年推計公表の1年後に、供給・使用表(SUT)の枠組みを活用し、コモディティ・フロー法等から推計される財貨・サービス別の「中間消費」と付加価値法等から推計される財貨・サービス別の「中間投入」について、財貨・サービスごとの特性を踏まえて突合・調整を図る。

6. 基準改定基礎統計のうち「産業連関表」「国勢統計」等の基幹的統計の公表に合わせて、約5年に1度、大幅な改定(基準改定)を行う。

(出所)内閣府HP

 「1次速報 って、こんなに急いで出さないといけないものなの?」と言いたくもなりますが、諸外国をみると日本は特別早いわけでもなく、むしろ遅いくらいのようです。1次速報値について、米国、英国、ユーロ圏は四半期終了後1か月程度で公表しており、G7で日本より遅いのはカナダくらいです。米国や英国の1次速報が早いのは、①基礎統計の公表が早い、②基礎統計の2か月分入手の段階で推計している項目も多いことが挙げられ、この点に関して、設備投資等における基礎統計である『法人企業統計』(財務省)が四半期終了後2か月経過しないと公表されない我が国が欧米諸国と同時期に公表するのは困難であると言わざるを得ません。

そんな制約条件の下で、約1ヶ月と2週間程度遅れで1次速報を公表するのですから、精度に難があるのは当然予想できます。受験生が容易に調べられるよう、2018年1-3月期実質GDPのケースで話をしますが、1次速報と2次速報を比較すると、設備投資と個人消費に相当程度の乖離が生じました。特に前者は実質で前期比0.3%増と、速報段階の0.1%減から上振れしましたし、後者は反対に0%だったのが0.1%減とマイナス成長に転じました(経済に素養があることをこの先、自己アピールに使うつもりならば、今すぐH30年版「経済財政白書」と最新版の「日本経済」で当該部分をちゃんと確認してくださいね)。

 このように、そもそも1次速報は精度が甘いのですから、厚労省による統計不正問題が衆議院予算委員会における質疑の大半を費やす状況を鑑みて、今回は1次速報は見送って2次速報からでもよかったのでは?と個人的には思います。というのも、これでいつものように2次速報で数値に大きなずれが生じれば、また「お手盛り」やらよくわからない批判が噴出し、戦後初の当初予算100兆円超ともいわれる2019年度一般会計予算の審議がまともになされない状況になるのでは?と危惧してしまうからです(昨年も森友問題ばかりで、やはりまともに予算案の審議がなされなかった記憶があります)。

 ①経済動向を迅速に把握する必要性がある、②主要国でも公表時期の早期化の動きが支配的(ユーロ圏は2015年までは日本と同時期の公表でした)といった観点から、速報性が重視されるのも理解はできますが、基礎統計が出揃わない段階で1次速報を公表しても、結局は2次速報で大きな修正を余儀なくされる…なんだか、納期ばかりが優先され品質については後回しにしてしまう納入業者みたいです。

 厚労省の対応の杜撰さゆえに我が国の統計そのものの信頼性が揺らいでいる中で、こうした内容のブログを書くと、「ここでもまたいい加減な仕事ぶり露呈!」などと早とちりする人がいるかもしれません。しかし、最初からちゃんと読んでくれればわかるように、速報の精度の甘さは不可抗力で生じたものです。それどころか彼ら(統計に関わる職員だけでなく他省庁含め多くの職員)の仕事ぶりは本当に真摯です。

 昨年末、CIMAアカデミーで内閣府説明会を開催しました。説明会では経済部局(経済財政運営担当)の若手職員が講演してくれたのですが、その際「H30年版経済財政白書」掲載の四半期ごとの実質GDPの動きとアップデート版の2つの資料を掲載したうえで、話をされました。説明会参加の学生は皆おとなしいので最初はなかなか質問が出てきません。そこで、私がブログの最初の方にも書いた2018年第1四半期の個人消費の相当な下振れ(1次QEでは0%だったのが、その後の国民経済計算では-0.3%(季節調整値)になっています)をもたらした要因について質問しました。

 その場で答えられるような内容じゃありませんので、今思えばいじわるなことした気がします。当然ながら「なんでだろう…。ちょっと調べてみますね」といってその場は収まりました。そして、説明会お礼メールを送った数日後、講演者の方から質問内容に関する回答が届きました。残念ながら、それで私の疑問が全て解消…とまではいきませんでしたが、時間を要してでも丁寧に回答する姿勢に感服しました(人のこと言えた立場じゃありませんが、相手が官民問わず「その場を収めてそれっきり…」ということばかり経験してきましたので、正直驚きました)。

 仕事柄、元受講生を除けば、基本的に秘書課・人事課の人としか関わりを持つことはありませんが、内閣府の事例に限らず、みなさん総じて真摯な仕事ぶりですし、メディアで漏れ伝わる「上から目線での対応」なんて、ほとんど経験したことがありません。それでも、時系列でみると、齟齬が生じてきたなあと感じることが増えてきました。もっとも、相手は1~2年で入れ替わるのに、私はずっと仕事が変わらないのですから当然でしょう。統計における速報値、改定値それぞれに異なる姿勢で向き合うように相手と接すれば、無用なイライラも解消するかもしれません。

 GDP統計において、1次速報の結果に過剰反応する人は、少なくとも研究者にはいないと思います。むしろ、1次速報結果を強調するマスメディアの姿勢に疑義を表明する人の方が多いと思います。でも、世の中の多くの人はこれだけ官僚を叩いておきながらも、役所が公表するものに対して今だ何処かで無謬性を信奉しているように思われます。だからこそ、改定値が速報値と大きくズレた場合、事の本質や原因を直視することもなく「忖度」「お手盛り」と罵詈雑言を浴びせる…。

 速報値(特に1次速報)の意味を今一度我々はしっかり考えるべきだと思います。ゆえに、AI導入やら全数調査さらには統計部門の一元化やらで誤差をなくし精度を高めていくなんて意見は、このブログを最初から読めば明らかなように、完全に論点がずれているとしか言いようがありません(紹介した内閣府のHPをみれば、現状でも段階を追って精度を高めていることは明らかです)。もちろん、「1次速報は無意味」とまで言い切るつもりはありませんが、速報が抱える脆弱さを無視し、経済も政治も過剰反応する…これじゃあ、ネットの炎上動画と扱われ方が何ら変わりないような気がします。

 リテラシーが欠如しているにもかかわらず完璧さばかり要求する相手にどこまでも向き合える人間なんて、本来双方の立場が対等であれば存在しないはずだと思います。でも、実際にはどんな渦中にあっても粛々と業務を遂行し続ける人がいる…。今回のGDP1次速報公表を契機にいろいろ思いを馳せているところです。ちょっと専門用語が多くて頭に入らなかったかもしれませんが、ご容赦ください。

それでは、また。


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