みなさん、こんにちは。CIMAアカデミーでは今年受験組は週1で択一向け小テストに取り組んでいる一方、来期受験組に向けた講義もスタートしています。前者に関して、第1回目テストの結果を見たときは「今年の経済区分は最悪の結果になるのでは…(ちなみに、教養区分は3分の1の合格率でした)」という不安に襲われましたが、前回のブログにも書いたように危機感を持ってくれたのか、その後は平均点は上昇し続け、昨日の第3回目も前回を上回る出来でした。周囲に流されず、この調子を持続し続けてくれるよう期待しています。
先月のブログで、内閣府が公表した2018年10~12月期国内総生産(GDP)速報値(1次QE)を引き合いに、国民経済計算の公表手順や1次速報が抱える精度の甘さ等について言及しました。厚労省による統計改ざんが全国的に極めて高い注目を浴び、充満する正義感で以て、自らが理想とする組織のあり方を提言する人も多数登場し、さぞかし全国的に統計への理解が高まったことと思いますが、先日公表された2018年10~12月期国内総生産(GDP)改訂値(2次速報)の扱いの小ささを見るにつけ、所詮、多くの人々の憤りなんて一過性で当てにならないものなんだなあという想いが一層強くなりました。
改定値によれば、2018年10~12月期実質GDPは前期比0.475%増(季節調整値)であり年率換算すると約1.9%増(受験生の方、この期に及んで「年率換算できない」なんてのは無しですよ!)と、速報値に比べかなり上方修正されました。公表データを見る限り、民間企業設備投資の上方改定(1次速報:2.4%増→2次速報:2.7%増)が上方修正の最大要因でした。1次速報の精度の甘さを指摘する人がいるかもしれませんが、先月のブログで言及したように、1次速報の段階では基礎統計の一つである『法人企業統計』(財務省)が公表されていないことから仕方ありません。
一方、民間最終消費支出については、12 月分の「鉱工業指数」や「生産動態統計」の反映等により、実質 0.4%増と 1 次速報値(0.6%増)から下方改定となりました。ちなみに、民間最終消費支出の大多数を占める家計最終消費支出でみると、民間最終消費支出全体に比べ若干大きな下方修正となっています。おそらく、家計消費に大きな影響を及ぼす雇用者報酬について、「毎月勤労統計」(2018年12 月分)の確報化を反映した結果、前期比で名目 0.7%増、実質 0.6%増(いずれも季節調整済)と、1 次速報値(名目 0.7%増、実質 0.7%増)に比べ実質が下方改定となったことが影響しているものと思われます。
実質法人企業設備投資(全産業)、家計消費支出(勤労者世帯、名目、前年同月比)どちらも前期比で成長しているとはいえ、民間設備投資と民間最終消費でずいぶんと動きに違いがありますが(念のため言っておきますと、景気動向指数の個別系列としては、どちらも遅行系列です)、近年の労働市場における深刻な人手不足を受け、製造業を中心に省力化投資(スーパーのレジで皆さんも実感してるんじゃないですか?)が伸びている現状を反映した結果と考えれば、何ら不思議ではないと思います。
先月のブログで指摘した通り、速報値と改定値で数値は大きくズレましたが、衆議院予算委員会ではあれほど統計不正さらにはデータの取り方など統計手法の細部にまで相当時間を費やしたにもかかわらず(それなりに視聴していましたが、揚げ足取りかイジメに似たやり取りを彷彿とさせていたように思います)、参議院予算委員会では相変わらず「毎月勤労統計」の不正の犯人捜しばかりで、どこをみても統計のズレに対しては全く話題にも上っていません。「もし、改定値が下方修正だったら、どうなっていたのだろう?」と、穿った見方をしてしまいます。
そもそも、統計は誤差とは切っても切れない関係にあります。にもかかわらず、専門家を除けば、どれだけの人が統計と正しい距離で向き合えているのでしょうか。やたら速報性が求められ、精度にかかわらず結果が明らかになるたびに社会が右往左往する…。「景気」という漢字が示すように(「景気づけに一杯!」って呑み屋さんでよく聞こえてきますよね?)、その時の勢い次第で良くもなれば悪くもなる面があるのは確かに否めませんが、もし文字通り「景気づけ」という面しか、統計データに期待が寄せられていないのならば、精度向上なんかどうでもよいことだし、そもそも「統計不正問題自体、正に景気づけに合致した形になっていたのだから問題として取りあげるほどのものなのか?」ということになってしまいます。
既に述べたように四半期GDPの1次速報の精度は高くないどころか、年次GDPとの乖離は拡大こそすれ縮小する気配は感じられません。一方で、先月のブログでも指摘したように、米国、英国、ユーロ圏は四半期終了後1か月程度で公表しており、G7で日本より遅いのはカナダくらいという現実を考慮すると、速報の重要度はこれからも高まっていくことでしょう。しかし、2次速報で大きな修正をすればよいと開き直る、いわば納期ばかりが優先され品質については後回しにしてしまう納入業者みたいなやり方は、どれだけ内閣府の統計部局に同情を寄せたとしても正当化されるものではありません。
昨年の総務省統計委員会の下部会合における内閣府と日本銀行とのやり取りを通じて、日銀はGDPの精度に対して不信感を持っていることが新聞等で報じられました(割と大きく取り上げられていたので、経済区分受験生ならばきっと記憶にあるでしょう)。厚労省の統計不正問題が表面化する以前に、専門家の間では、我が国の統計そのものの信頼性に疑義を呈する声は上がっていました(先月のブログでも指摘したように、そもそも速報データの公表に際して、かなり無理を強いる形になっていることが問題なのであって、内閣府や総務省などの統計に関わる職員の資質についてではないので誤解のないように)。
速報と確報の間の誤差拡大を改善するための提言は専門家から多くなされていますので、我々は関心を寄せつつも見守っていくべきでしょう(受験生のみなさんには、小巻泰之・大阪経済大学教授「GDP速報 改善への課題」(2018年12月24日付け日本経済新聞)を読むことをおススメします)。皮肉なことではありますが、統計というものが抱える問題点だけでなく可能性も多くの人々の前に曝け出したという点で、今回の統計不正問題は多大な貢献を果たしたものと私は捉えています。
景気という「気」が、統計を通じて視覚に訴えかけ、そこではじめて政策の是非について議論できるものだと思いますが、説明会等に参加する学生を見ていると、肌感覚やら手触り感やらもっともらしいこと言ってはいますが、「気」から自分が思い描く政策を語る人が圧倒的に多いです。もちろん、経済区分試験では必須科目として統計・計量経済学(全5問)が課せられています。しかし、近年は教養・専門合わせて5割の得点率で1次試験を通過できてしまうせいなのか、最初から統計計量を放棄(下手すると、他の理論科目でもちょっとひねった問題はすべて捨ててしまいます…)する学生が多いのが実情です(ウチはかなりしごきますが…)。
せっかくこれだけ統計が注目を集めているんですから、この機会にもっと統計に関心を寄せてもいいのではないでしょうか(注目のされ方には問題がありますが…)。このブログを閲覧される方の多くは経済区分での受験者だと思います。周りから意見を求められることもあるのではないでしょうか。そんな時に、政治の問題、組織のあり方の問題でしか話ができないのって、どうなんでしょう(別に両者を軽視しているわけではありません。ただ、それらについて知りたければ、別の人に訊くだけです)。私ならば「この人、経済学を学んでいるというから訊いてみたけれど時間の無駄だった」と思います。
本試験まで残り1か月ちょっとですから、もうちょっと受験勉強の励ましになるような内容が相応しいのでしょうけれど、過年度のブログでさんざん書いており、今さら…という気持ちが本音です。それよりは、不勉強のまま本試験を迎える層の増加に警鐘を発すべきと思い、今回の内容にしました。きっと今年も、勉強不足であっても試験自体には合格する人が出てくるかと思います。しかし、官庁訪問について、データからは経済区分に厳しい現実が読み取れます(うちのHPに過去5年分のデータを掲載してありますので詳しくはそちらをご覧下さい)。どう行動すべきかはご自身でお考えください。
それでは、また。