みなさん、こんにちは。2次試験も残り1週間を切りました。受験生の皆さんは追い込みの時期で、私も添削やゼミで気持ちが安らぐ日はありませんが、内々定獲得まであと2か月耐えましょう。今日は、どちらかといえば来年受験予定の人向けの話になります。
数日前、大学の講義後に、ある学生から「先生、僕、経済産業省行きたいんですけど今から何をすればいいんでしょう…」と、唐突に質問されました。CIMAアカデミーならいざ知らず、大学ですから私もちょっと驚きました。理由を尋ねると、「twitterでこれが話題になっていて読んでみた結果、自分もこんな仕事がしたいと思った」と、下記の資料をみせてくれました。
「不安な個人、立ちすくむ国家~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」と題する、産業構造審議会総会(第20回)配布資料の一つでした。学生が言うようにいろいろリツイートされており(金曜日のCIMAアカデミーの講義で学生に話をしたところ、既に皆知っており、中には眼を通している受講生もいました)、 また当該資料自体、HP上に公開されているので、このブログにもリンクを貼りましたが、問題があるようでしたらリンクを外しますのでご連絡いただければと思います。
資料の内容そのものについてですが、①会議の配布資料という性格上、一般に向けた最終提言ではないと思われる(私だって、公刊した論文に対してはともかく、研究会での報告資料に対して、想定していない外部から、説明が足りな過ぎるやら言葉が軽すぎるやら言われても困ってしまいます)、②資料に対する自分の感想が、これから2次試験、官庁訪問を迎える受講生の進路選択に歪みを及ぼすのを避ける、以上より、コメントは差し控えます。ネット上では賛否両論かなり飛び交っていますが、興味のある方はご自身で資料をちゃんと読んでみてください(経産志望か否かに関わらず、みておいて損はないと思います)。
ただし、次の一点だけはものすごく気になりました。それは、表紙をめくった最初のページにある『昨年8月、本プロジェクトに参画する者を省内公募。20代、30代の若手30人で構成。メンバーは担当業務を行いつつ、本プロジェクトに参画』(下線部は池田によるもの)の部分です。長いこと社会人やっていると、どうしても下線部については言葉通りに受け取ることができません。「省内(社内)公募=暗黙の強制」「担当業務を行いつつ~参画=サビ残または超過勤務」という私の穿った見方が杞憂であればよいのですが、ただ、いくら関係者がやりがいをもってプロジェクトに臨んでいたとしても、外部、特に大学生はそのようにはみてくれません。その点については、公務員試験の志願者動向が如実に示してくれています。
表は最近5年間の総合職試験申込者数の推移ですが、今年の落ち込みぶりが目立っています(前年比7.1%減)。院卒行政は司法試験との日程の関係があるので仕方ないとして、経済区分、そしてあれだけ試験科目変更について積極的にPRされていた政治国際区分については、凋落傾向に歯止めがかからないどころか、減少幅が拡大しています。こう書くと、「景気と公務員志願者数は逆相関の関係にあるからだ」という答えが返ってきそうですが、他の公務員試験と比較してみると、様々なことが見えてきます。
【最近5年間の国家公務員および特別区試験申込状況】
注:総合職は大卒事務系・院卒行政、一般職は行政、特別区は事務の合計
公務員志望の大学生にとって最も身近な試験に国家公務員一般職があります。こちらも基本的には総合職試験と同じ動きを示していますが、ただ今年についてみると、減少率は総合職の半分未満の規模です(-3.3%)。同じことは国税専門官や労働基準監督官などの国家公務員専門職試験にも当てはまり、こちらは全体として微減にとどまり、しかも、減少しているのは国税専門官、財務専門官、法務省専門職(人間科学)のみで他の4種に至っては増加に転じています。
地方公務員(ここでは首都圏の大学生にとって最も人気の高い東京特別区試験(事務)をとりあげます)も、国家公務員一般職および専門職試験と同様、微減(-2.6%)にとどまっているだけなく、リーマンショック以前の毎年8000人程度に比べて、依然相当高い人気を保っている状態が続き、これは国家公務員と大きな違いとなっています。もちろん、ピークを過ぎたとはいえ、特別区が大量採用の時代にあることも志願者数の高止まりに大きく作用していることは疑いないでしょう(H27年の急減は、国税専門官をはじめとする国家公務員専門職試験と日程が重複したため)。
こうしてみると、民間就活動向の好調さにより公務員志願者が減少傾向にあることは事実であるものの、少し掘り下げていくと、総合職試験を除き、就職先としての公務員は依然、大学生の間で根強い人気を保っているといえます。週に一度、大学の経済学部2年生対象に開講している公務員試験対策講座が今年突如として昨年の1.5倍くらいの人数になり、大教室であるにもかかわらず毎回9割を超える出席率で推移している一方で、今年(去年もそうですが…)の総合職試験1次試験会場の閑散ぶりに困惑していた私も、総合職の一人負け現象(あくまで志願者数という観点からですが…)として捉えるのならば、すべて納得できます。
いずれにせよ、どんな公務員と比較しても説明会の回数は桁違いに多く実施されているのに、総合職だけ減少率が大きい理由を、景気要因のみで語ることには無理があります。おそらくは、学生が知りたい情報と学生に対して実際に伝えられる情報に大きな乖離があり、それにより生じる不安を解消することができないが故に、リスク回避志向の大学生が受験を敬遠するのだと思われます。
前職において、私は機会はそんなに多くなかったけれど、地方自治体の説明会の進行役として参加する機会がありました。自治体の説明会自体そんなに多く開催されているわけではないので、参加者数は総合職の比じゃありません。大教室があっという間に埋まりました。で、肝心の説明会ですが、業務説明中さらには質疑応答において、必ず残業や休日の過ごし方といった仕事内容とは直接は関係のない話が出てきたのが印象的でした。一方、総合職向けの説明会では、現在に至るまで残業や休日の過ごし方に関する質問はほとんど聞かれません。あったとしても、少なくとも説明会の中心になることは絶対にありません。
たしかに、話をする側からすれば、アフター5に関する質問ばかりって、あまり気分の良いものではないでしょう。一方で、今や仕事の内容だけで学生は職業選択をする時代でなくなっているのも厳然たる事実です。とはいえ、公務員である以上、大手企業を上回るだけの魅力的な待遇を提示するなんて不可能です。しかし、情報の非対称性を解消させることは可能です。それは回数ではなく、話の内容または質問のしやすさにあると私は認識しています。
これまで数多くの説明会を開催し、様子を観察してきた人間として言わせていただくと、説明会において学生の方から勤務実態について質問をすることは、なかなか難しいことだと思います。一方で、学生はさまざまな情報媒体を通じて過酷な勤務実態について情報を入手していることから、説明会でどれだけ仕事のやりがいについて話を聞かされても、勤務実態についての話が出てこないことに不安を感じるのではないでしょうか。
昔から就活やバイトにおいて、事前に待遇や勤務実態について詳細な話を求めることを良しとしない風潮が支配的ですが、この先も少子化の流れが続く時代において、本気でさまざまな学生に関心を持ってもらい説明会や官庁訪問に足を運んでほしいと思っているのならば、従来の考えを改める時期に来ているのではないでしょうか?(もちろん、「こちらの話に共感してくれる人だけ足を運んでくれればいい」という考えもありだと思いますが、それならば説明会実施回数を誇るよりも、自分たちと価値観を共有できそうな人材が多く集まっていそうなところでのみ説明会を実施する方が、仕事の負担を減らす意味でもはるかに合理的だと思います)
いつまでも出自や思考が一定の範囲で収まる人材ばかりが集まる組織だと、景気動向が大きく変化しない限りこの先も志願者数は減少の一途を辿るだけでなく、冒頭の経産省若手官僚が提言したことも所詮「絵に描いた餅」に過ぎない結果になると思います。近未来の危機を語り、利他的選好の高い学生のハートに火をつけることも大事ですが、入り口段階における情報の非対称性解消にもう少し熱意をもって、学生と対峙してもよいのではないでしょうか?
さて、冒頭に登場した学生の質問に対してですが、私の答えは「じゃあ、最低でも私の講義に毎回ちゃんと出席して、講義中、私が質問したら目をそらさず、ちゃんと自分の言葉で答えることだね。本当にできる?」学生の表情がどうなったのかはご想像にお任せします。
それでは、また。